はしれサイドテール

Extreme Heartsを観てください。

人生で初めてライブを観に行った話。──『Extreme Hearts × Hyper × Stage』を振り返って

 

 

 昔から、「一体感」という言葉が苦手だった。

 ファン同士の繋がりやコンテンツとファンの双方向性といった幻想に驕る人々の姿が私には眩しく、直視できなかった。

 舞台は役者と物語のためだけに存在し、客席は誰とも繋がっていない。

 私にとってすべては画面の向こうの存在で、壁一枚隔てた世界で私は常に孤独だった。

 

 

 そんな私の人生において、『Extreme Hearts』との出会いは本当に異質な「体験」だった。

 配信やSNSにブログといった媒体を活用して、メディアに露出していく登場人物と私たちの世界とを繋いでいく本作。フードコートライブの事前投票で1票ぶんの特権を行使した我々視聴者は、いつしか作中の大勢のファンの中に溶け込み、RISEと共に一夏の青春を駆け抜けていく。

 TVアニメの最終回、現実と虚構がないまぜになった満員のライブステージの客席で青いペンライトを握ったあの日、確かに私の──いや、私たちの視線の先に葉山陽和が存在したのだ。

 

 

(わざわざこの記事を読みに来る人はおおかた既に『Extreme Hearts』を視聴していると思うが、念のため前回執筆した布教記事を再掲しておく。)

 

gear-zombie.hatenablog.com

 

 

 だから、正確にはライブに足を運ぶのは2回目と言ってもいいのだけど。

 これは、生まれて初めて自分の足で画面の向こう側へと踏み出したオタクLv1の盛大な自分語りである。

 もうイベントから随分日が経っているし、熱に当てられた参加者達のレポート執筆率が異常なほど高く(マジで皆書いてる)、この記事を読んでいる多くの人にとっては既に聞き覚えのある、或いは身に覚えのある話ばかりになってしまうだろうが、それでもあの日の熱に、かけがえのない「体験」に栞を挟んでおくことには意味があると信じたい。

 

 

 

 

 というわけで、2023326日。私は『Extreme Hearts』(以下エクハ)初の大型イベント、『Extreme Hearts × Hyper × Stage』が開催されるという山野ホールへ足を運んだ。

 放送終了から半年が経過し、今や公式広報のリツイート数はわずか平均2300台のこのアニメ。800人のキャパシティが埋まるのか些か不安だったが、杞憂も杞憂。会場は満席、円盤購入者による先行申込の割合も高く、一般販売分は即完売。

 外はあいにくの雨模様で桜の季節に似つかわしくない肌寒い一日であったが、悪天候に負けないファンの確かな熱が感じられた。

 

 

 正直、グッズの詳細が発表されて、イベントに際した様々な企画が公開されて、グッズがわりとナメたスケジュールで手元に届いて、会場で同好の士による長蛇の列を目の当たりにしてもなお、自分がエクハのイベントに来ているという実感がいまいち伴わなかった。ただ、会場の空気というものにはしっかりと当てられていたようで、デジタルガチャというやたらと時代を感じる販売形態の会場限定グッズや保存用のアクリルジオラマ(1個は事前通販ですでに購入していた)など、予定外のものまで色々と買ってしまった。

かわいいよね。へ〜今なら事後通販もやってるんだ〜!

 あとその……葉山陽和さんのプライベートタイム抱き枕カバーの方をね……購入させていただきました……

いや俺が買ったのはエクハの新規描き下ろしイラストとコンテンツに金を出した事実であり決して葉山芸能に圧力をかけてエロ売りするキングレコードの卑劣なやり口を認めたわけではないんだよな。(早口)

 

 

 私が内なる己と格闘している頃にはすでに抱き枕カバーはキングレコードに屈したオタク達によってほぼ全て売り切れており、葉山陽和さんを抱えてブースを出た数分後に全種完売の報が流れた。スタッフブックもめでたく完売し、Twitterのトレンド……ではなくTLには「エクハ完売」の文字列が。

 ここで、スタッフがクオンロボットサービスのTシャツ(非売品)を着ていることに遅れて気付く。物販で売らないグッズまでわざわざ作ってるんだ!?といたく感銘を受けた。ちゃんとファングッズしつつ普段使いに耐えうるデザインで普通に欲しいなーと思いつつ、「クオンのロゴは運営スタッフの証であり、ファンに売るグッズはあくまでアイドル達をあしらったもの」っていうラインを守っているのが作品世界へのリスペクトに溢れていてとても良かった。

 

 

 物販を終え、ブラインドグッズをトレードしたり、ツイッターでお世話になっているフォロワー達と挨拶を交わして秒で会話からあぶれたりしながら時間を潰していると、思いの外あっという間に開場時間がやってきた。

 スタッフの指示通りに地下へと進み、謎の抱き枕カバー展示コーナーを抜けると、そこには本編12話ラストに登場した等身大RISEパネルの再現ポップ*1が。粋なサプライズに大興奮のファンによる廊下を一周するほどの撮影待機列に私も加わり、数枚撮影ののち着席。

 

 

 開演とともに「大会の開幕」*2が流れ出し、眩しすぎるほどの照明がステージと客席に降り注いだ時、ようやく「ああ、本当に始まるんだ」という緊張と高揚が全身を駆け巡るのを感じた。

 

 

 キャスト登壇前の利根健太郎さんのMCにより、声出し解禁の旨が正式に報じられる。私は観客の自己顕示によって演者のパフォーマンスに不純物を投じる文化(ド偏見)にも当初首を傾げていたのだが、終わってみればこのイベントは字義通りファンの声援がなければ絶対に成立しなかったし、この数年間日常に強く根差した抑圧からの解放と、エクハファンが半年間待ち望んでいた誰にも憚らずに大好きだよって叫べる時間が偶然にも重なったことは、会場を支える強いエネルギーになっていたと思う。

 

 

 

 

 ライブと書いてはみたものの、イベントの内容としては「ミニライブのコーナーが設けられているトーク中心のアニメイベント」といったところ。せっかくアーカイブ配信のチケットが販売中(4/9まで視聴可)とのことなので各コーナーの詳細な振り返りは割愛するが、キャスト一人一人がお気に入りのシーンを映像付きでピックアップするコーナーでは進行もよそに応援上映めいた空気で誰もが頷くあの名シーンを見守ったり、ツイッターで一万回見たエクハ印のちょっと間の抜けたキャプたちをスクリーンで見てキャッキャしたり、放送当時から視聴者の間で根強い人気を誇るノノちゃんの名(?)台詞を生で聴けたりと、想像よりもずっと濃く、それでいて心地良いファンコミュニティの空気感が絶えず流れていた。あと大画面に突如映し出される葉山陽和さんのエッチな抱き枕カバー(裏面)のサンプルの解像度では見えなかった谷間の主張の強さに思わず声をあげてしまった。正直今も受け止めきれてない、葉山陽和さんの谷間。

 とにかく橋本ちなみさんが終始良かったですね。こういうキャストがわちゃわちゃやるコーナーってあんまりノれないタイプなんだけど、円陣に混ぜてもらえないところでめちゃくちゃ笑ってしまった。百合です!

 

 

《配信チケット》TVアニメ「Extreme Hearts」スペシャルイベント『Extreme Hearts × Hyper × Stage』|楽天チケット

 

 

 あとは2話の陽和がカラオケで歌っていた曲のタイトルがサラッと明かされたりも。エクハは視聴者に語らない、語る必要のない部分まで息づく箱の一部としてしっかりとデザインされているのも私を含めたユーザーを惹きつけて止まない要素であり、もしかしたらこういった機会に少しでも覗けないだろうかと密かに期待していたので、この新情報は印象的だった。正確には本編での使用に際しJA……ACに登録する都合があるため以前から調べれば出てきたようなのだが。

 ちなみに同じくJA……ACで検索すると咲希の歌った曲も出てくる(「キラリ☆FLY HIGH」というそうです)のだが、曲名を知った上で該当のカラオケシーンを観ると、陽和の歌った曲の題名が咲希の歌った曲のフレーズに対応しているように見えるし、陽和の歌った曲のフレーズが咲希の歌った曲の題名に対応しているように見える。親方!これは……? 百合です!

 

 

 そんなこんなであれやこれやと時は過ぎ、休憩タイムを挟んでいよいよライブパートに。

山野ホールは音響があまりよろしくない」という噂を以前から時折耳にしていたのだが、幸か不幸か、これが人生初ライブとなる私にとっては比較対象が存在しないのでさしたる問題ではないだろうと踏んでいた。

 しかし、幕間に届いたSnow Wolfキャスト両名からの応援メッセージがスピーカーの不調でガタガタになっている*3のを前に、早くも「構え」の姿勢を取らざるを得なくなってくる。

 

 

 

 

 そうして憂愁に駆られつつ始まったライブステージは、幸いにもつつがなく進行していた。

 初手に披露された岡咲美保さん歌唱の主題歌「インフィニット」はOP映像の音ハメの気持ち良さも合わさり、毎話30分間の視聴体験を勢い付けたように会場のボルテージも一気に高めてくれる。見様見真似でペンライトを振っていたので多少ついていけないところもあったが、「もしかしたら好きなアニメの曲に合わせて棒振ったり身体動かすのってめちゃくちゃ楽しいんじゃないか?(天才)」という気付きを得、俺ライブのこと完全に理解したかもしれん……と調子に乗り始めたところでMay-Beeが登壇。「HELLO HERO」でおなじみの本編12話のステージ衣装に身を包み……

 えっ!?!? ステージ衣装作ってくれてるの!?!?!?

 この後のRISEも同話の再現衣装を纏って登壇するのだが、次があるかもわからない、たった一回のイベントの一角に過ぎないミニライブのために(会場に来られなかった大西さんの分も含めて)9着もの衣装を用意するのは、決して簡単なことではないはずだ。イベントで販売されたRise up DreamTシャツは作中のライブシーンの再現グッズなのだから、極端な話RISEはそれを着て踊っていたとしても公演として成立はしていたはず。

「ミニライブ」の規模感をいまいち掴みかねていた、そもそもミニライブをやること自体ギリギリまで明言していなかったこのイベントにあって、衝撃的なサプライズだった。

 この記事を書いている最中にエクハのライブパート全般を担当している國行由里江さんのツイートから発覚したことだが、RISEMay-Bee達のステージ衣装をデザインした段階では実際にこの衣装をキャストが着て歌ったり踊ったりする予定は一切なかったそうな。

 

 

 歓喜の傍ら、不安もあった。ティーナを演じる嶺内ともみさんが2022年内に声優業を廃業、智を演じる大西沙織さんが直前に体調不良による欠席を発表。May-Beeはフルメンバーから2人を欠いた状態での登壇となる。

 陽和の歌声を柱としてユニゾンを主体にメンバー同士の絆や関係性を表現しているRISEと異なり、最強の5人が集まることで最強のチームとして君臨する王者May-Beeは「ソロで繋いでサビでユニゾン」を楽曲のコンセプトとするグループだ。この決定的なハンデをどう乗り越えるのだろうか? 観客の熱を冷まさない回答に具体的な想像が及ばないまま、「Buzz Everyday」のイントロが流れ出す。うお〜〜〜〜!!!!!

 

 

 Aメロに差しかかり、コールも入れて盛り上がろうというところで突如音源が途切れ、歌唱が中断される。

 初めは演出かと思い、トルコアイスのパフォーマンスに付き合わされる子供の気持ちで静観していたが、その後も度重なる中断、中断。ここで私も、異常な事態を遅れて理解する。

 流石はプロ。「時間が貰えた」と軽快なトークで繋ぐも、深刻な機材トラブルを前にやむなく仕切り直しということで演者が一度捌ける事に。

 

 

 演者不在の間を持たせるべく、どこからともなく客席から湧き上がるMay-Beeコール。

 それでも繋ぎきれなくなった時、撮影スタッフの機転によりスクリーンに映し出された客席の最前ラーメン*4Mina de GanbaroneTシャツ*5によって、会場は再び熱を取り戻す。ラーメンの食品サンプルがスクリーンに大写しになってドカ湧きする会場、二度と見ることないだろうな。

 エクハの公式Twitterアカウントは時々抜けてるだけで基本的に真面目なので、全話通して画面に2秒しか映らないモブの話を擦り倒すような運用はしていない。キャラソンのリリイベや円盤のオーコメで演者が軽く触れてはいたものの、公式の方からかくあるべしという空気を作ってきたわけではないのだ。

 ユニークなアイディアを実行に移したファンも、それを抜き取る撮影スタッフも、不意に映し出された映像に思わず吹き出した会場のみんなも、マニアック極まりない作中のネタを誰に強いられるでもなく拾い、自然と全員がひとつの輪の中で笑顔になっていた。

 やや経ち、May-Beeが再びステージに上がる。その後も機材は決して復旧したとは言い切れないコンディションだったが、もう会場の盛り上がりを阻むものは何もない。

 奇しくも「ド派手なピンチも楽しむPassion」を体現する形となった。

 

 

 この一連のトラブルはアーカイブ版ではカットされているのだが、イベントを終えて振り返ってみるとあれは本来興行として、それもエクハ初の、もしかしたら最後になるかもしれない大型イベントとしてあってはならない、何か一つでも要素が噛み合わなければイベントそのものが壊れかねなかったほどの凄惨な事故だった。TVアニメ最終回で陽和が起こしたアクシデントは作中のファンにとって感動のドラマとして語り継がれる一方で、陽和本人はあくまでプロとして恥ずべき、繰り返すべきでない失態という姿勢を貫いている。そういった線引きがしっかりとしている生真面目さもエクハに抱いたうれしさと信頼のひとつなのだから、こうしてあの時間を大団円で乗り切った私たちがあの一夜のできごとを記録に残して面白おかしく語り継ぐだけで十分だろう。過度な神格化は同調圧力を生みかねないしね。

 いつか大西さんや新生ティーナにSnow Wolfや他のハイパースポーツアイドル達のキャストも交え、機転が必要ないくらい十全な環境でエクハのライブが見られることを切に願う。*6

 

 

 続けざまに「HELLO HERO」が披露され、会場を温めておいたと言わんばかりにMay-BeeからRISEへとバトンが渡る。

 先んじて触れていたが、こちらもファイナルステージの衣装に身を包んでのパフォーマンスとなる。あの衣装って色もそうだけど、よく見ると5人それぞれ細かい部分でもデザインが異なっているんですよね。ようやってくれたよ本当に……

 RISEの一曲目は「Happy☆Shiny Stories」。Bメロの、TVアニメで描かれた1番では陽和を中心として咲希&理瀬と純華&雪乃の両ペアにフィーチャーした可愛らしい振り付けが印象的なこの曲だが、2番では5人全員で円を描く形になっていたのがすごく嬉しくて。本編では尺の都合もあってフルサイズでライブパートを描くのは難しいけれど、リアルライブはこういう補完ができるのも強みなんだなーと感銘を受けた。

 

 

 そして……Happy☆Shiny Storiesの後に披露される曲といえば一つしかないだろう。RISEと共に走りきった日々から数ヶ月間、一度だって忘れたことのない、強く焦がれた瞬間がやってくる。「全力Challenger」。

「ずっと待ってたんだ きっと」……歌い出しの通り誰もが待ち望んでいた演目だが、実を言うと危惧している部分もあった。

 あの時ファイナルステージで陽和が発露した想い。2048年夏の陽和にとって本当に、本当に大切な瞬間であるからこそ、今この場で「再現」されてしまうのではないかと。安いエモーショナルで2048年と2023年双方の体験を損なうようなことは絶対にしてほしくない。同じことを繰り返すくらいなら死んでしまえ、そう岡本太郎も言っていた。

 

 

 迎えた間奏、ギターソロをバックに野口瑠璃子さんの口から放たれる「大好き」はあの時のそれとは少し違っていて。

 ごめんなさいじゃなくてありがとう。定められた尺の中でしっかりと気持ちを乗せきった力強い叫びは、安直な「再現」などではなくリスペクトに満ちた「踏襲」であり、ファイナルステージの反省の延長線上にある陽和の「今」に想いを馳せることができる、素晴らしい演出だった。

 

 

 示し合わせるまでもなく、客席は一面の青で埋め尽くされる。

 今更言うに及ばないが、TVアニメ最終回で描かれた「全力Challenger」のライブ中に起こる一連の事件には一切の説明的な独白が介入せず、そこに在る心象と現象のすべてを画とアクティング、ファンからの目線に委ねているのが印象深い一幕である。その上でこの日この会場この演目で青いペンライトを振ることが、客席に一面の青空を描くことが、最終回を経てスペシャルイベントの切符を握りしめた数百人共通の夢として強く刻まれていたであろうことそれ自体が、Extreme Heartsという作品と葉山陽和という少女がもたらしたものを雄弁に語っていた。

 

 

 2048年の観客に己を重ねていた2023年の私は、今日この日にほんとうの意味であの青い光の海の一部になれたのだと感極まって。

 泣くかなと思っていたけれど、不思議と涙は出なくって。

 ただただ青空を仰ぐような気持ちで、輝くステージを見つめていた。

 

 

 演者によるMCを挟み、早くも最後の曲「SUNRISE」へ。本編にはライブシーンが存在しない楽曲だが、今回のイベントでは惜しくも披露されなかったRise up Dreamを思わせる振り付けを取り入れているなど、こちらもHappy☆Shiny Stories同様リアルライブならではの見応えがあった。衣装といい、ミニライブのコーナー全体でもってTVアニメ12話の流れを思い起こさせる構成である。

 エクハという作品のエンディングとしてこれ以外はありえないという一曲。本編同様、最高の時間を実に爽やかな読後感で締めくくってくれた。

 

 

 

 

 ライブの余韻もそこそこに、キングレコード三嶋章夫プロデューサーからの手紙が届く。……電報ではなくあえて手紙の形態を取るところにも、TVアニメ本編への細やかな目配せを感じる。

 アニメの大型イベントで偉い人から告げられること──或いは告げられないことといえば、最大の懸念である「アレ」しかない。緊張が走る。

 

 

 放送から半年余りが経過した今でも絶えず私や周囲の人々を惹きつけてやまないエクハだが、各コーナーで読み上げられるお便りには揃いも揃って顔見知りならぬアカウント見知りの名前しかなかったのがコンテンツの実態を如実に表していて。

 包み隠さず言えば、この会場にいる誰もが、「今日この日がExtreme Heartsというコンテンツの区切りなのかもしれない」という悟りと縋りを抱えてここにやってきたのだろう。

 全員が固唾を飲んで見守る中、粛々と手紙が読み上げられる。

 

 

 ざっくり言うと、手紙の内容はこうだ。

 

 

「これまで都築作品はシリーズとして展開してきたが、エクハはお世辞にも世間的にヒットしたとは言えず、今この場で続編を発表できる状況にはない。それでもファン一人一人の熱量の高さは伝わっているし、事実として高額商品も売り切れた。何よりエクハという素晴らしい作品をここで終わらせたくない。必ず何らかの形でコンテンツを継続する。まずは新曲を作ります」

 

 

 

 ……………………

 

 

 や、

 

 

 やった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!

 

 

 

 口ぶりからして、企画が通った様子ではない。

 何の保証もない、ほんの口約束。

 それでも、モノを売る立場の人間から採算的に厳しい作品に対してできうる、最大の寄り添い方だった。

 

 

 エクハというアニメが、知名度こそ高くないものの受け手の心に強く深く刻まれ続ける作品であることは、この会場の熱気が証明していて。

 それは、商業的な成功こそなかったけれど閉じかけた一人の少女の心に熱を届けたシンガーソングライター葉山陽和の歌に似ていて。

 良ければ売れるわけではない。売れないからといってそれがすべてではない。

 そして、腐らず立ち上がればいつか大好きを届けてくれる人が増えていって、世界が広がって、皆で夢の続きを見られる……

 それって、Extreme Hearts1クールかけて描いてきた物語そのものじゃないですか。

 

 

「誰かの存在が、誰かの声が、夢を諦めずにいられる力になる。」

 前回の記事でも引用した、私の大好きな一節。陽和が咲希を想い、ああこの受け取った気持ちをわたしも誰かに届けられたらと、虹の花束に込めた確かな祈り。*7

 陽和が咲希にもらった手紙に、ミシェルが病院の子どもにもらった折り紙のメダルに翼を貰ったように。

 私も、私たちもエクハにとってそんな存在になれただろうかと、ファンの声が作品に与える力というものをみとめて、少しだけ、けっこう自惚れてもいいかなと、そう思える夜だった。

 

 

 もちろん、熱狂に値する作品を、それはもうたいへんな企画を乗り越えて世に送り出してくれたことよりも尊いことなんてなくて、私たちは無邪気に無遠慮にそれを享受しているだけなのだけど。

 なんの取り柄もない私が人生で初めて、ありがとうと大好きを素直に受け止められた気がしたのだ。

 

 

 とはいえ、まだまだ安泰とは口が裂けても言えない。依然としてエクハはマイナーなアニメだし、ファンコミュニティは村社会。コンテンツとして予断を許さない状況なのは確かだ。

 私は小鷹咲希ちゃんではないので、ここから先私にできることは声を上げて祈ることくらいだけれど、いつか作り手も自信を持って今後の展望を語れる未来が来てほしいと切に願う。本当に素敵な、奇跡みたいな作品なので……

 

 

 

 

 かくして、3時間に渡る夢のひとときはエンディングを迎えた。最後に優木さんがSUNRISEに絡めてニヤリと口にしていた(オタク!)が、外はすっかり雨が止んでいるらしい。それは心に重くのしかかっていた先行きの見えない不安が晴れるようで。

 既に陽は沈んで真っ暗だったが、いつかの青空に思いを馳せ、皆が未来を向いて明日へと手を伸ばす、実にエクハらしい形で『Hyper × Stage』は幕を下ろした。

 

 

 800人という外から見ればちっぽけで、でも内から見れば心強い規模感だったからこそ、自分も、隣の人も目の前の人も、そのまた隣の人も、壇上に立つキャストの皆様も、裏方としてイベントを支えるスタッフの方々も、ここにいる全員が「エクハが好きな人達の集まり」であるうれしさを終始肌で実感する最高のイベントだった。*8

RISEたちが円陣を組んで盛り上がっているところに居合わせた外野がぎょっとするシーン」と言えばエクハの視聴者ならいくつも思い浮かぶことだろうが、言うなれば当日の山野ホールは、まさしく800人規模の円陣だった。

 陽和の夢が、咲希の誓いがRISEの夢になり、みんなの夢になっていくように。

 800+α人が持ち寄った「わたし」の熱が交わって「みんな」になったあの日のあの会場、あの空間のすべては、間違いなくエクハのためだけに存在していた。

 

 

 はっきり言ってここに書いてあることなんて全部私が勝手に都合よく受け取ったものでしかないのだけど、でもだからこそそんな妄言を共有できる人達の存在を祈らせてくれる、信じさせてくれるあの時間は、何物にも代え難い「体験」だったと思う。

 

 

 何より、エクハがもう一度「またね」って言ってくれたのが本当に嬉しくて。

 何度も何度も噛み締めては込み上げてくる感情を大事に抱えながら、会場を後にした。

 

 

 Extreme Hearts × Hyper × Stage。「みんな」でしか見られなかった最高の景色があったことを、決して忘れない。

 いずれこのイベントを「第1回」として思い出にできる日が来ることを、心から願う。

 

 

 

 

 大盛況で終えたイベントののち前後不覚のまま高田馬場へと運ばれ、Twitterで交流があったりなかったりした10人余りのエクハファン達と、おすしとかデザートもたくさんある焼肉食べ放題店に行ってきました。

普通にうまい肉食ってきたオタクは甘え

 イベントで活躍した最前ラーメンの方や、会場で1名にプレゼントされた新垣一成さん描き下ろしRISE色紙をみごと手にしたすごいオタクとの邂逅も。ラーメンの方がいらっしゃるのは知ってたけど色紙当てて眼鏡吹っ飛ばしたオタクのTシャツ見てこれ絶対この後会う人じゃん!ってなったのアツかったね……

 

 

 みなさまたくさんお話できてたのしかったです。肉一枚も焼かなくてごめんなさい。エクハがまたねって言ってくれたので、またきっとお会いする機会があると信じています。

 ありがとうございました!

 

 




 

*1:余談だが、円盤でも修正されていなかった理瀬の髪の色指定が修正されているらしい。

*2:Extreme Hearts オリジナルサウンドトラック vol.1収録。

*3:アーカイブ版では差し替え済み。

*4:本編3話参照。

*5:本編71012話参照。

*6:ちなみに今回のMay-Beeのステージは4人用に歌詞の振り分けを調整した上で、智のパートにはソロ音源を流していた。

*7:BEST 4U』内ボイスドラマ「陽和&咲希&ノノのB4Uストリーム♪」より

*8:実は私の席は隣も前も空席だったのだが、それはそれ。